
2025.10.21
美しい幾何学模様の糸かけ曼荼羅。温かみのある一閑張りの籠。 これらの作品は、茨城県ひたちなか市にある生活介護事業所「やまとあい」に通う利用者さんたちが、ひとつひとつ丁寧に作り上げたものです。 その作品は、ただ美しいだけでなく、見る人の心を揺さぶり、やさしい気持ちにさせてくれる不思議な力を持っています。 今回は「やまとあい」という場所を辿りながら、そこに込められた想いを紹介します。
生活介護事業所とは?
「二人の役に立ちたい」――立ち上げに込めた想い
創作活動の始まりと変化 「可能性があることを知ってほしい」
やまとあいが目指す未来
生活介護事業所は、障がい者総合支援法に基づく福祉サービスのひとつです。 常時介護が必要な障がいのある方が日中に通い、食事などの生活動作の介護を受けながら、創作活動や生産活動に取り組む場です。 目的は「自立した日常生活や社会生活を営むこと」。利用には区分認定が必要で、区分4以上が対象となります。やまとあいには、区分4〜6の利用者さんが通っています。
お話を伺ったのは、代表の檜山さん、職員の中村さん、田口さん。 ボランティア活動を通して障がいを持つ方々と関わっていた檜山さんは、母親の立場で思いを抱える中村さん、現場経験を積んできた田口さんと出会います。そこで「二人の役に立ちたい」と強く思ったことが、やまとあい立ち上げの原点でした。

やまとあいの事業所にある作品と言葉たち
中村さんは障がいのある子の母親として「苦悩や日々の小言を共有しあえる、気持ちを分かち合えるサロンのような場がほしい」と願っていました。手仕事好きな母親たちと作業をしながら、子どもの迎えの時間には「じゃあ頑張ろうね」と言い合えるような場所を思い描いていたのです。 一方、田口さんは入所施設での経験から、「障がいがあってもなくても、好きなことがありそれを引き出せる場所をつくりたい」「みんな、磨けば光るダイヤの原石だから、それぞれ光り輝いて欲しい」と強く願っていました。 三人は語り合いを重ね、やがて「理想の事業所をつくろう」と決意。2023年7月、生活介護事業所「やまとあい」が誕生しました。

筋ジストロフィーを発症した「閑張り作品」の作り手大越 佳彦(おおこし よしひこ)さんの言葉

作業の様子
創作活動のきっかけは、中村さんが糸掛曼荼羅の作品に出会ったことでした。 糸を一本一本掛けていく作業は、「集中力やこだわりの強さを持つ利用者ならできるかもしれない」と始めてみたところ、職員も驚くほどの表現力が次々と生まれました。 始めは、職員と一緒に作り指示があれば作業をする方も、自分の作品が売れたことをきっかけに「次はこれを作りたい」とアイディアを語るようになったり、時には「職人になる」と口にするほど、創作に熱中するようになりました。

糸かけ職人、星 佳佑(ほし けいすけ)さんの作業風景
「できない」と思い込んでいたことが、「できる」へと変わる。その瞬間、利用者の中に自信が芽生え、周囲もその可能性に気づかされます。 中村さんは「日中に褒められると気持ちが安定し、家でも穏やかに過ごせるようになる」と話します。一見、日常生活とは関係のない創作活動が本人だけでなく家庭の安定・安心にもつながっているのです。 やまとあいは、「障がいがあるからできない」のではなく、「誰にでも可能性がある」。この経験をひとりでも多くの方に知って欲しい。そんな思いで創作活動を続けています。

ミサンガを編む利用者さんの作業風景
「一番の心配は、親なきあと」――これは多くの家族が抱える切実な思いです。 やまとあいが目指す理想は、障がいの有無に関係なく、日々の暮らしの中で「今日はこれをしたい」「これを食べたい」と自分の気持ちに従って生活できる場所。誰もが安心して、自分らしく生き生きと暮らせる居場所です。

壁に飾られた手書きの「やまとあい」の理念
生活介護事業という形で、その理想に向けた第一歩を踏み出したやまとあい。利用者が「頑張る場所」として、一人ひとりの個性を輝かせる活動を続けていきます。やまとあいの物語はまだ始まったばかりです。

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