
【後編】”リファイニング建築”ってなに!?真にサステナブルな建築方式をタドる!
2022.03.22
時代を先駆けていた、建築家・青木繁氏が提唱する「リファイニング建設」。昨今のSDGsの世界的潮流や市民感覚の変化に伴い、徐々に社会からの注目や関心が高まっている。

そしてそこで注目すべきは、氏が重要と語るのが、これまで私たちには見る術がなかった工事途中の現場を解放し、安全性はもちろん担保しながら、見学会を開催することに重きを置いている事実。それはつまり、UPDATERがみんな電力のエネルギー事業や他の新規事業で標榜する、「顔が見える」関係を通じての社会課題解決、つまり社会をアップデートしていく取り組みの、建築業界における先駆的な具体例なのではないかということだ。
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普通の建築の現場では珍しい、工事途中の見学会の様子
熱を帯びているうちに終えた青木繁氏インタビュー記事後編では、思考の源流と現代に見える希望、また氏を支える力強くも柔軟な胆力の秘訣に迫った。 ー一番最初にこのコンセプトにたどり着いたきっかけは何でしたか? 青木 北イタリアはヴェローナにある、カルロ・スカルパという建築家がつくった博物館です。お城を再生させた博物館になっていて、それを見た時に「日本でこんなことがしたい」と思ったんです。 大分の田舎に帰っていろいろ喋っていると、「こんな物件やってみないか」という話がきました。海軍の防空壕みたいなものを資料館にしたいという仕事で、完成後それが雑誌でも取り上げられて評価され、そこからポツポツ話がくるようになりました。 その後、田舎の小さな町の庁舎なんかを頼まれて、当時の町長さんに「『古屋のゼニ失い』、つまり『古い建物の再生はお金がかかる』って言われてるけど、大丈夫か?」なんて聞かれたり(笑)。 だから最初の頃は、確率的に行くと一割打者。10件提案して1件しか成功しないようなところから、完成までの確率を上げています。 ーカルロ・スカルパ建築との出会いが発端だった。

青木 33の時だから、もう40年前になりますね。やっと70代で、仕事がくるようになった(笑)。 ここまで、ある種の諦めもありました。世の気づく遅さに対する腹立たしさは、50代の頃は強くありました。今はそれこそが自分自身を鍛えてくれたと思っています。時間が経過しないとわからないことが多いし、「社会が受け入れる時まで待つしかない」と思えるようになりました。 ただ、やっぱり会社でも国でも、決定権を持っている人たちが昔のイメージのままやっていると、進歩や進化はない。「10年後にこう、20年後はこう」という目標と発想、行動がないから、ITと金融以外の新しいビジネスは生まれてこない。 ー希望が持ちにくい社会で、悲しい気持ちになります。 青木 古い建物の再生が面白いのは、現実がリアルに見えることです。超大手が手掛けたビルでも、いざ剥いでみたら「コンクリートが詰まってない」ということがあります。 反対に、地域密着型の地元企業には、大変素晴らしい仕事が多いです。 ー電気の世界でもそうですが、建築業界でも、地域地域において「顔の見える」関係でやられていると、真摯な姿勢が仕事に表れる。 青木 僕なんかは田舎の生まれで、ガキの頃からずっと顔の見える範囲でやってますよね。だから結局、そういう「顔の見える」仕事を建築でやろうとするのは、現場を「公開する」ということなんです。 先日工事の途中、補修がほぼ終了のタイミングで現場を公開した時も、2日間で450人くらい来ました。今までで一番多くて、1日500人来たこともあります。 来られるのは一般の関心がある方、マンションを持っている方だったり、建設会社とか不動産関係者、あとは学者に行政ですね。建物が完成すると既存躯体の中は、まったく見えなくなる。それに、工事の途中で見学会を行うと現場を止めないといけないし、安全性の問題なんかもあって大変です。 ーUPDATERは「顔の見える」関係を通じて、社会課題を解決することを目指しています。まさに、建築業界における、そのケースのお話だと思います。
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リファイニング施工前
青木 本当のことを言えば、リノベーションを行っている方々も、みんな工事内容を公開していけばいいんですよ。そうすれば、健全な工事にならざるをえません。 今の政治の世界はすごく面白くて、この間の月100万円の給付にしたって、今までみんな黙っていたけれど、議員の中から出てきました。ああいう「これ、おかしいでしょう?」という人が出てくることで世の中は変わる。 不動産は、手を出せば基本儲かります。ただ「お金のためにやる」と、消費者にはどうしても辛い部分がでてきます。建築界も同じようにしていかないと、どうしてもおかしなモノができてきてしまう。 ー今、社会全体が大きな意味で端境期にきている感覚でしょうか?

リファイニング施工後
青木 ありますね。ほんの少しの力ですが、やっぱり「動いている」ことは感じます。例えば今僕がやっていることは全体の千分の一か万分の一かもしれませんが、もっと0.5%や1%を占めるくらいになったら、世の中ガラッと変わります。 政治家の人も、100人に一人じゃなくて、声を出す人間が増えればもっと変わります。だから今僕の最大の課題は、そういった遺伝子をどう残すかということなんです。 ー現代の若者たちがみんな、先生の教えに「コレですね!」と目をキラキラさせているわけではない、、? 青木 ウチの卒業生で、あっちに入っちゃうのもいます(笑)。同じことを言ったって、伝わる人と伝わらない人がいるんです。これはもう、心の問題だと思っています。 だからいつも、「お母さんの家をつくるような気持ちでやれ」と言っています。「愛する人のためにやる」というのは基本で、でもみんなそれを忘れてるんです。 ー素晴らしいことと思います。 青木 私、もう73ですからね(笑)。 ーここまでの道のりで、明るい兆しが見えることもあるのではないでしょうか。 青木 建築家で日建設計から独立した知人がいて、久しぶりに会ったら「先生が設計した建物を買いました」と。千駄ヶ谷に、相続に困った方の賃貸マンションがあって、その詳細を見てたら僕が設計した物件だということがわかって、それで「これなら安心だ」ということで。専門家が、そういう目で見てくれたのならいいなと思ってね。 でもこういうことを一般に広めるのは結局、見学会みたいなことを丁寧に、一人でも来てくれるのなら熱心に説明して、そういうことが重要だと思います。 それから、あらゆることをガラス張りにしないとダメなんです。 こういう仕事には裏金が発生しがちなところを、まったく公平にやる。何社か見積もりをとってやるとか、絶対裏金をもらわないとか、そういう基本的なことをやらないから、おかしくなっていっちゃうんです。 ーこれまで何らか高い壁に当たって、心が折れそうになったことはありますか?
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青木 一晩は悩みますね。でも一晩寝て起きたら「次、さあ行こう」というね(笑)。それは、仕方のないことですから。 役所がなかなか認めてくれないとか、プロポーザルを出しても全部落ちるとか、そういうのは裏の世界です。特に建築界というのはジェラシーの世界ですから、むしろそれがあっての世の中だとは思います。でもそのうち、断られたクライアントに「青木さんに頼んでおけばよかった」と思ってもらえればいいんです。 例えば好きな人に告白して、フラれるじゃないですか。それでも「いつか見ておけ」って、それがモチベーションになるってことです(笑)。 ー現実とジェラシーの世界で、柔軟な思考を維持されてこられたように思えます。 青木 2つあって、一つは、「古いものを使いたい」ということ。 それから建築家の寿命は、だいたい10年と言われています。30代で世に出ると40代の前半でダメになるし、写真家の二川幸夫さんも建築家の寿命は5年と言いました。次々に新しい人が出てくるし、安藤忠雄さんからは「寿命の10年後に、自分のピークをどこにするかを考えろ」と言われました。 僕の世代で、現役でガンガンやっているのはもう2、3人です。つまり、デザインだけでは消費されます。 僕はだから、「消費されない建築の在り方って何だろう」という風に考えたんです。もう一つには、「技術に寄り添ったデザインの仕方を考えよう」というのがありました。その2つを考えてきたのが、よかったんだと思っています。 前編もぜひ、お読みください! https://tadori.jp/articles/66
TADORiST

エネルギーのポータルサイト「ENECT」編集長。1975年東京生、School of Visual Arts卒。96〜01年NY在住、2012〜15年福島市在住。家事と生活の現場から見えるSDGs実践家。あらゆる生命を軸に社会を促す「BIOCRACY(ビオクラシー)」提唱。著書に『虚人と巨人』(辰巳出版)など https://www.facebook.com/dojo.screening Twitter @soilscreening
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